ケリー基準をカジノの賭けにあてはめると、答えは「賭けない」になる
資金のうちどれだけを賭けるかを計算する「ケリー基準」は、カジノの「必勝法」と並べて紹介されることがありますが、編集部がヨーロピアンルーレットの赤に賭ける場合にあてはめて計算すると、式が出した答えは−1/37、つまり「賭けない」でした。
このページの要点
- ケリー基準は、勝つ確率をp、負ける確率をq、勝ったときの利益を賭け金のb倍とすると、資金のうち(b×p−q)÷bを賭けるよう示す式です
- ヨーロピアンルーレットの赤黒(b=1、p=18/37、q=19/37)では答えが−1/37になり、マイナスの答えは「賭けない」ことを意味します
- 1つの数字に賭ける場合は−1/1295、ダズンでは−1/74と、ヨーロピアンルーレットのどの賭けでも答えはマイナスです
- 賭ける額ややめる時点をどう決めても、損失の期待値は賭けた総額に控除率を掛けた額(ヨーロピアンルーレットなら1/37)のままです
ケリー基準が答える問い
ケリー基準は、同じ条件の賭けを何度も繰り返すときに、毎回資金の何割を賭ければ資金が長い目で見て最も速く増えるかを示す式で、勝ったときの利益が賭け金のb倍、勝つ確率がp、負ける確率がqの賭けでは、賭ける割合f*は(b×p−q)÷bになり、分子のb×p−qは1単位を賭けたときの期待値そのものです。ここでの「最も速く増える」は、資金が1回ごとに何倍になるかを掛け合わせた伸び方、つまり成長率が最も大きくなることを指しています。
ケリー基準の式
- 賭ける割合:f*=(b×p−q)÷b
- b:勝ったときの利益が賭け金の何倍か(赤黒なら1、ダズンなら2、1つの数字なら35)
- p:勝つ確率、q:負ける確率(q=1−p)
- 資金の成長率:g(f)=p×log(1+b×f)+q×log(1−f)(logは自然対数)
答えが正の数ならその割合を賭けるのが資金を最も速く増やす方法になり、答えが0以下であれば、その賭けには資金を一切振り向けないほうがよいことを意味するので、式の答えには「賭けない」も含まれています。ケリー基準は、賭ける額を決める式であると同時に、賭けるべきでない場面を見分ける式でもあります。
ヨーロピアンルーレットの赤黒にあてはめると
赤に賭けると、当たれば賭け金と同じ額の利益(b=1)で、勝つ確率は18/37、負ける確率は19/37なので、式は(1×18/37−19/37)÷1=−1/37、約−0.027になります。編集部が計算したこの答えは、ヨーロピアンルーレットの「控除率」(約2.70%)にマイナスをつけた数と同じで、2倍の賭けでは式の分子が1回あたりの期待値そのものになっています。偶然の一致ではありません。
| 賭ける場所 | b(利益の倍率) | 勝つ確率 | ケリー基準の答え |
|---|---|---|---|
| 1つの数字 | 35 | 1/37 | −1/1295 |
| 2つの数字 | 17 | 2/37 | −1/629 |
| 6つの数字 | 5 | 6/37 | −1/185 |
| ダズン・コラム | 2 | 12/37 | −1/74 |
| 赤黒・奇数偶数・ハイロー | 1 | 18/37 | −1/37 |
どの賭けでも答えは−1/37をbで割った数になり、配当の大きい賭けほど0に近づきますが、マイナスであることは変わらず、「アメリカンルーレット」(0と00を含む38マス)の赤黒では、答えが−2/38(約−0.053)とさらに小さくなります。
マイナスの割合を「賭ける」ことは、賭けを受ける胴元の側に回ることにあたり、カジノの客にはできないため、客に残る選択は0、つまり賭けないことです。式がこの答えを出すのは、勝つ確率も配当もルールで決まっているカジノの賭けでは、1回ごとの期待値が最初からマイナスだからです。
成長率で見ても答えは同じ
ケリー基準の元になっているのは、毎回資金の割合fを賭け続けたときの資金の伸び方を表す「成長率」g(f)で、fを0から少し増やしたときの傾きg′(0)はb×p−qに等しく、ヨーロピアンの赤黒では−1/37です。gは上に凸の形をしているので、傾きが最初からマイナスであれば、0より大きいどの割合を選んでも成長率は0を下回り、最も良い選択はf=0、つまり賭けないことになります。
仮に毎回資金の1%を赤に賭け続けた場合、1回あたりの成長率は約−0.032%で、編集部の計算では1,000回後の資金は、ちょうど真ん中の結果(中央値)で元の約72%になり、割合を2.7%にすれば同じ中央値は元の約3分の1まで下がります。賭ける割合を小さくしても、減り方がゆるやかになるだけです。
よく見かける説明のどこが違うのか
「必勝法」と並べた解説では、ケリー基準が最適な賭け金の決め方として紹介され、勝つ確率を自分で見積もるスポーツの賭けが例に使われることがありますが、それは自分に有利な賭けがあると考える人が額を決めるための使い方で、控除率が決まっているカジノのゲームとは別の問題です。カジノのゲームには見積もりの入る余地がなく、式は最初から「賭けない」と答えています。
仮に、賭け金と同じ額の利益が出る賭けで、勝つ確率を自分では55%と見積もったとすると、式は資金の10%を賭けるよう答えますが、本当の確率が50%なら、編集部の計算では毎回10%を賭けたときの成長率は1回あたり約−0.5%と、マイナスになります。式の答えは見積もりの正しさにすべてを預けており、見積もりの誤りは、そのまま損失になります。
なお、日本国内からオンラインでスポーツの賭けに参加することも、警察庁が「バカラ、スロット、スポーツベッティング等、その名称や内容にかかわらず、オンライン上で行われる賭博は犯罪です。」としているとおり、カジノと同じく犯罪です(くわしくはオンラインカジノの違法性)。
やめどきの決まりと期待値
「10%法」や「ハーフストップ法」のように、賭ける額やゲームをやめる時点を決める方法も紹介されていますが、期待値がマイナスの賭けでは、どの時点でやめても、それまでの損失の期待値は、それまでに賭けた総額の期待値に控除率を掛けた額(ヨーロピアンルーレットなら1/37)になり、勝っているうちにやめる決まりも、負けが一定の額に達したらやめる決まりも、この関係を変えません。やめどきの決まりが変えるのは、どこで終わりやすいかという結果の散らばり方だけです。
損失の期待値を減らす効果があるのは賭ける総額そのものを減らすことだけで(計算は均一賭けのページ)、ケリー基準がカジノの賭けに対して出す「賭けない」という答えも、同じ結論を式の形で言い直したものだと私たちは考えています。
よくある質問
ケリー基準を使えば、カジノで資金を増やせますか。
増やせません。ヨーロピアンルーレットの赤黒にあてはめると答えは−1/37で、0より大きいどの割合を賭けても資金の成長率はマイナスになります。
ケリー基準のマイナスの答えは何を意味しますか。
その賭けには資金を振り向けないほうがよいという意味です。マイナスの割合を実際に賭けることは、胴元の側に回ることにあたり、客にはできません。
「10%法」や「ハーフストップ法」で損失は減りますか。
期待値は変わりません。やめる時点をどう決めても、それまでの損失の期待値は賭けた総額に1/37を掛けた額になり、減らせるのは賭ける総額そのものを減らした場合だけです。
出典と参考資料
- オンラインカジノを利用した賭博は犯罪です!、警察庁
- 刑法(第185条)、e-Gov法令検索